一体どうしてだー!? 夏だからか? 夏だから戦争、そういうテーマに!?
すみません、あんまり高杉が出張っていません。…あれー??
午後までに一気に書き上げるつもりの高金は違うし……誕生日小説なしになるかも。
ごめん、晋ちゃん。愛じゃなくて、時間が足りないんだ。筆力も足りないんだ(泣)。
ほのぼのしているのに、やや暗いテーマです。軽く欝・注意です。
松下村塾時代……子攘夷たちのお話といいつつ、先生が主役(笑)。
同根異質のモノ
一瞬、塾の中に光が飛び込んできて、吉田松陽は教科書から、ふと顔を上げた。生徒たちも、一様に目を瞬かせている。
相変わらず授業を聞かずに寝ていた筈の銀時はいつの間にか起きて、猫のように中空を見つめながら、ぽつりと呟く。
「かみなり、だ」
声と同時に、どぉおん、と重い音が響いた。
轟音に驚いた生徒たちが小さく叫ぶのを合図にしたように、天の蓋が外れたような雨が降り出した。見る間に激しさを増す雨音を圧して、雷鳴が唸る。巨大な滝が出現したかのように、低い音が断続的に響く。
灰色の空に青白い閃光が走ると、しばらくして轟音が響く。その度に生徒たちは怯えて震え、臆病な者など泣き始めてしまった。松陽が泣き始めた者たちを気遣う合間、周囲を見渡すと他とは違う行動をしている――誰もが目を背けている雷雨を見つめている者が、三人だけ居た。
一人は銀時だった。じっと目を凝らして、雲を見つめている。濃淡の変化を見て、雲を読んでいるのだろう。そして光と音の時間差を計り、天気がどうなるのかを見極めようとしていた。幼い頃に親の庇護を失った銀時は、どうしようもない自然の脅威に対してすら、自分で対策をしなくてはいけなかった。その名残なのだろう。
もう一人は桂だった。しかし眼差しに銀時のような厳しさは無く、むしろ興味と好奇心で眼がきらきら輝いていた。後で松陽が訊くと、『あの稲妻が植物の根に見えて。ねぇ先生、あのふわふわした綿みたいな雲の上には、きっと不思議な花が咲くんだろうね』と、奇妙で突拍子も無い夢想に耽っていたのだという。
そして最後の一人は高杉だった。だが、その表情には前述の二人とは違って、はっきりとした怯えが見て取れた。小さく震えながらも、眼を瞑りもせず、耳を塞ぎもせず、ただ雷を純粋に観察していた。ただ驚くのではなく、どういった物なのかを理解しようとしていた。
数多の爆弾が破裂しているような、音と光はしばらく続いた。
雷が去った後に、どうして雷というものが発生するのか、あの音と光は何故ああいう風なのかを尋ねたのは、高杉だけだった。どうやらあの嵐の中で、それを考えていたらしい。
他の二人、例えば銀時は『ただ、そういう風なものなのだ』と疑問は抱かずに、ただ対策を考えていた。桂は前述の通り、風変わりな空想をしていた。
ごく普通の子どもというのは、ただ恐怖が通り過ぎてしまうのを待つだけなのに、彼らはどこか変わっていた。
(この子たちは将来、一体どんな大人になって、何を思って生きて……そして何を成し遂げるのでしょうね)と、松陽はどこか頼もしく思っていた。
そんなことがあってからしばらくして。すっかり季節は夏に変わっていた。
子どもたちは納涼大会と称した肝試しに参加したり、田舎の祖父母の家に遊びに行ったり、またはいつもよりも遠い場所まで探検に行ったりしていた。
そして、その夜は神社で開かれる夏祭りに来ていた。
松陽が境内を歩いていると、時たま塾の生徒たちに出会った。皆、仲の良い友人と一緒になって、夜店の遊びに熱中したり、常とは違う不思議な雰囲気を味わったりした。
いよいよ夕焼けが西の彼方へ帯をひいて消えていくと、境内の提灯に明かりが灯された。朱色と白の提灯が交互にぶら下がり、中の蝋燭が気ままに揺らいでいた。ぼんやりとした灯りで笑いさざめきながら、誰もが非日常である祭を楽しんでいた。
「さて、そろそろ時間ですかね……」
そう一人ごちた松陽は社の横を通り過ぎて、境内の裏手にある鎮守の森へと入っていった。
鎮守の森には人影が少なかった。いや、実際には何処からともなく声が聞こえてくるので、単に森の闇に隠れてしまっているのだろう。と。
「あれ? 松陽先生」
上から声が降ってきた。松陽が木を見上げると、そこには高杉が枝に腰掛けていた。
「おや、晋助。あなたも花火を観に来ていたんですね。まさか、一人で?」
「うぅん。ヅラと銀時も一緒だけど、まだ縁日じゃないかな。あいつら、ガキだから」
「そうですか。なんだか、目に浮かぶようですよ」
くすくすと松陽は笑いながら言う。いかにも不精々々に祭へやってきたように高杉は言ったが、その頭にずらして付けている狐の面を見れば、十分に祭を楽しんでいたことは想像に難くない。
きっと高杉特有の孤立癖とでも呼ぶべき、突然の我儘で先にこちらへ来たのだろう。
「あ、ねぇねぇ先生。聞いても良い?」
「ええ、なんですか」
「花火って、どういう原理なの?」
ははぁ、そうきたか。松陽はちょっと首を捻る。言葉だけの説明で、はてさて伝わるか。
「ちょっと降りてらっしゃい、晋助。絵を描いて説明しますから」
「はーい」
答えると、高杉は慣れた様子で枝を探りながら、するすると木を降りてきた。
「いいですか、まず……」
松陽が手近な枝を拾って、説明を始めようとした時、後ろのほう、社が建っている方角から声がした。
「あれー、先生。久しぶりー」
そう銀時の声がした直後、夜闇でも目に付く銀髪が、いきなり傾ぐ。隣を歩いていた桂が銀時の頭を叩いたらしい。
「ちゃんと敬語を使わんか。……お久しぶりです、先生」
「はい、久しぶりですね。小太郎に銀時」
ニコニコと返事をすると、松陽は手招きをする。
「ちょうど、花火について説明をしようとしていた頃です。良かったら聞きませんか?」
「へ〜花火の?」
「原理ですか?」
銀時と桂は口々に言いながら、高杉と一緒に松陽の手元を覗き込む。高杉は小さく舌打ちをした。子ども特有の独占欲を邪魔されて、不機嫌になったようだった。だが、松陽が懐中から小さな蝋燭を出して、明かりを点けると。
「まぁいいや。先生、どういう風に作ってあるの? 花火って」
「ええ、原理は爆弾と同じなのですよ。こう……」
言いながら、二重丸を描く。そして中の小さな丸の下方から、一本の線を下に伸ばした。
「中の小さな丸が、芯となる……」
薬室という単語を書いて。
「こう書いて、『やくしつ』と読むのですが、火薬が入っています。その下にあるのは、上へ飛ばす為の推進用の火薬が入る……筒、ですね」
そして二重丸の隙間に、小さな円を沢山書き込みながら、星という単語を書く。
「薬室の周りには、『ほし』と呼ばれる粒が入っています。こちらは色を……」
次には炎色反応と漢字で書く。
「……燃えるときに色を出す金属が、星に入っているんです。これはまぁ、夏休みが明けたら実験することにしましょうか。なかなか綺麗なんですよ」
説明を終えた松陽が、質問は? と目で問うと、桂がひょこっと手を上げた。
「どうぞ、小太郎」
「はい。えっと……原理が爆弾と一緒って、つまり火薬で破裂する、という点が同じ…なんですか?」
「ええ。特に砲弾でしょうかね。目標まで飛んでいったら中心の火薬が爆発して、周りにある殺傷用の危険なものが飛び散るんです。花火には、人を傷つけるものではなく、光り輝くものが入っているという、たったそれだけの違いなのですよ」
松陽が言い終えると、三人はそれぞれに思案顔で黙ってしまった。きっと、思うところがあるのだろう。しかし、今日は祭の夜なのだ。
「……さぁ、そんなことよりも、そろそろ花火が始まりますよ」
そう言って、場の空気を切り替えるように手をパン、と打ち鳴らす。
「そうだ。どうせなら、木の上から見ましょうか。ここでは人が多くて、あまり見えませんから。さてさて、誰が一番高くから見れますかねぇ……?」
すると、三人揃って闘争心に火がついたらしい。
「よーし、こないだの決着、つけようじゃねぇか」
「へぇ言いやがったな、ちび杉。上等だよ」
「また、くだらんことで……」
「なんだぁ? 負けんのが怖いのかよ、ヅラぁ」
「誰がヅラだ! よかろう、今日こそ目にもの見せてくれる!」
「よっしゃ! じゃあ誰が一番先にてっぺんまで行けるか、競争だからな」
「おうっ!」
口々に言って、どうやら話がまとまったらしい。微笑ましそうに見ていた松陽は、三人がこちらを見上げているのに気が付くと。
「ええ、では。用意……始めっ!」
開始の合図を送ると、一斉に木を登り始めた三人を見上げて、笑みを浮かべた。
その後、松陽も適当に選んだ木の上へと飛び上がると、枝に腰掛けて花火を見始めた。頭上では、どうやら木のてっぺん近くで、三人が花火に見蕩れているらしかった。
丸く輝く、色とりどりの大輪の花が空に咲くのを、見つめていた。濃紺の夜空は花火に焼かれて黒さを増して、色彩をなお鮮やかに見せていた。ただ、感動して魅入る人々。
「彼らの未来では、ただ花火が咲いて欲しいものです」
そう松陽が呟いた言葉が、炸裂音に混じって三人の耳に届いた。
しかし、その真意を悟るのはずっと先のことだった。
雷よりもはっきりとした脅威と悪意を持った砲弾が、花火の代わりに打ち上げられる世界。
そこに三人が飛び込むのは、それからたった数年先のことだ。
人の命を奪うには、たった一つの爆弾で事足りる。
しかし、人を笑顔にする花火は、その何百倍も必要なのだ。
それだけのことにも、気付けずに……。
あとがき
話が思いついたのは、とてもほのぼのとしたエピソードでした。
なのに、なんでこんな重苦しいテーマにすり替わってしまったのか?
きっと今書いている、金魂長編のせい…重いよっ(号泣)
松陽先生のキャラを自分なりに作ろうと書いていたら、想像以上に真面目で、
どんどんと話が重くなりそうになって、軌道修正も虚しくキツイ終わり方に。
なんでこんなに先生が……? 語り役のつもりが、主役になっていました。
流石、あの三人の先生。私如きでは太刀打ち出来ませんでした(汗)。
多くは語りませんが、たった一つだけ。
幸福を築くのは、壊して殺すことより、ずっと難しいことなのだ、と。
だから人を傷つける行為は、安易で怠惰な行動に過ぎない、とね。
それだけ言いたかったんです……。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。

